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ジェイドレゾナンス ー新星に灯る始まりの血脈、深緑の衝撃ー
ジェイドレゾナンス ー新星に灯る始まりの血脈、深緑の衝撃ー
Author: 未来が見えない

第一話 命の鎖

last update publish date: 2026-07-09 19:24:52

これは、遥か昔の話だという。気候は温暖で、大地には多種多様な生き物が生息していた。草木は高く伸び、ビルのような巨木が林立し、弱肉強食――自然摂理に忠実な世界が、そこにはあったらしい。その地域に寒冷な時期は訪れず、いや、私の見立てでは星そのものが熱帯だったのではないかとさえ思う。

そしてその世界には、今では到底考えられない生命体が存在していたという。それが真実かどうかは疑わしい。だが、情報を無限に記憶し続ける生命体がいた――そんな話が、まことしやかに語り継がれている。

私は、それを信じたい。たとえ科学で証明できなくとも、今とは異なる技術体系、いや、自然摂理そのものによって発展した世界があったのだとしても、私は信じたい。

それこそが、我々を救う·なのだから。

「おい、ソウ!!」

「ソウ!!! 起きろ! 狩りに行くぞ!!」

鼓膜を震わせる怒声の主は、銀髪で筋肉隆々の男だった。漆黒のTシャツに同色のズボン、その上から古(いにしえ)の紋様が刻まれた黒と茶のローブを翻している。ソウの親父――ゲンだ。

(なんだよ親父……一昨日まで『明日にする』って言ってたじゃねえか。眠いんだよ、クソ……)

心の中で悪態をつきながら、ソウは重い瞼を持ち上げた。中学生ほどの少年であるソウは、寝癖のついた黒髪を緑と茶のターバンの様な物で強引に後ろへ流している。

「わかったよ、起きた起きた。はいはい、起きましたよーだ」

地面に木の板と葉を敷き詰めただけの、お世辞にも寝心地が良いとは言えない簡易ベッドから、泥のように重い身体を起こす。それを仁王立ちで射抜くように睨んでいるのがゲンだった。

「おっせぇわ、たわけが!!」

「昨日言ったことをもう忘れたのか? 今日は他の狩人と共同戦線を張り、あの『バガール』を仕留める。一族の命運を懸けた大一番なんだぞ!」

眉間に深い皺を寄せ、ゲンが至近距離まで詰め寄る。

「え?そうだっけ? 昨日そんなこと言ったかな~。ははは、記憶にございませーん」

ソウは肩をすくめ、わざとらしくしらばっくれた。

「はぁ……もういい。どうせそんなこったろうと思ったわ。ほらよッ!」

ゲンの手から放り投げられたのは、「三つの目」と「六枚の羽」を持つ巨大なハエだった。テニスボールほどの質量があるその塊は、すでに事切れている。

「うわああああああああああああ!!」

それを見た瞬間、ソウの眠気は吹き飛んだ。バネが弾けたような勢いで後ろへ跳び退く。

「何しやがるボケ親父ぃ!!」

「ああ!? お前こそ何しとんじゃボケ!! 俺がどんな思いでそのフライバエを捕まえたと思ってんだ!」

ゲンの拳が怒りで小刻みに震える。それもそのはず、この数日間、寝食を惜しんで追い回し、ようやく仕留めた希少な「供物」なのだ。

「だってよ親父! そいつ、排泄物(ウンコ)食うんだぜ!? しかも色んな奴の! それを食うってことは、間接的にウンコ食ってるのと一緒だろ!!」

断固拒否。ソウは必死に訴えるが、ゲンは一切の慈悲を見せない。

「……四の五の言うな」

ゲンは拾い上げたフライバエを掴み、獲物を狙う猛禽の如き速さで距離を詰める。

「待ってくれ親父! 俺が悪かった! 今回は本当に――」

謝罪の言葉を言い切る前に、強靭な指先がソウの顎をこじ開けた。間髪入れず、グロテスクなフライバエが口内へと押し込まれる。

「んぐっ!? がばっ、あああっ……!?」

強引に咀嚼させられ、喉を通り抜ける異物感。ソウの瞳に屈辱と不快の涙が浮かぶ。

「……ふん、世話の焼ける。だがなソウ、今日ばかりは俺がいても、お前を守りきれる保証はないんだ」

(もごもご……最悪だ……今、喉の奥で足が動いた気がしたぞ……クソ親父……)

涙目で悶絶する息子を見下ろし、ゲンの表情が「戦士」のそれへと変わった。

「ソウ、よく聞け。我ら一族に伝わる“宿る力”――それは我らに刻まれた呪いであり祝福だ。喰らったものは、お前の血肉となり力と化す。願え、宿らせろ。己の芯から力を呼び覚ませ」

ゲンが一歩踏み込み、静かに構えを取る。

――宿れ、フライバエ。

刹那、ゲンの身体から悍ましいほどのプレッシャーと共に漆黒の靄が立ち昇った。

バキバキと音を立てて肩から二本の異形な羽が突き出し、額には第三の目が、血走った状態でカッと見開かれる。

ゲンは羽を羽ばたかせ、重力を無視して宙へと舞い上がった。

「ソウ! そのアホな脳みそを回せ! さっさと形態変化しろ、狩りに遅れるぞ!」

(うぜぇ……マジでだりぃ。いつかはやる時が来ると思ってたけど……よりによって最初の「宿し」がフライバエかよ)

ソウは脳裏に、これまでの修行で叩き込まれた「思念法」を呼び起こす。

(脳内での対話、喰らったモノの残滓……そして、変貌した己のイメージ……!)

(今まで一度も呼応しなかったくせに、こんな最悪な気分で……!)

しかし、やるしかない。ソウは深く呼吸し、濁った意識を一点に研ぎ澄ませる。

自身の脳に、深く、鋭く念じた。

(――俺と、共鳴しろ)

その瞬間、頭蓋の中で無数の声が反響した。自身の思考に、羽虫の羽音のような、ざわつく「他者」の感覚が混ざり合う。

視界が激しく歪み、平衡感覚が消失する。だが、すぐにそれは鋭敏な「覚醒」へと変わった。

(……成功だ。次へ行くぞ!)

休む暇はない。イメージを具現化させる。

(フライバエの核を掴め。俺と混じり合い、新たなカタチを成せ――!)

全身の筋肉が強張り、神経を熱い奔流が駆け巡る。ソウは地を蹴り、叫んだ。

「――宿れ、フライバエ!!!」

ドッ、と激しい衝撃波と共に、ソウの肩からも異質な羽が突き出した。

「うおおおおお!! できたじゃねえか、この馬鹿息子が!!」

変貌を遂げたソウの姿を見て、ゲンは満足げに口角を上げた。そして、その視線は遥か彼方、死地となる狩場の方角へと据えられる。

「ソウ、行くぞ。……今日は、命を使い切る覚悟をしろ」

二人が空を切り、目的地へと急ぐ。

しかし、その狩場からはすでに――この世のものとは思えない絶望の響きが轟いていた。

――ズドドドドォォォォンッ!!!

大地を揺らす爆震。

辺り一面、吹き飛ばされた土埃と、無残に引きちぎられた植物が舞い踊る。

視界を覆いつくす茶色の帳(とばり)の向こう側。

巨大な黒い影の中で、不気味に輝く二つの赤い閃光

それは、地面を数百メートルにわたって抉り取るほどの絶大な暴力の爪痕。

そして、その破壊の跡には――

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